2020年の映画のベストを語る第二弾は、昨年に引き続きEPIさんによるリバイバル上映された過去の名作映画の中でおすすめの3本をご紹介!
「デニス・ホッパーの知られざる傑作!」「あのパラサイトにインスパイアを与えた韓国映画!」「ギャスパー・ノエも絶賛!実在事件の映画化!」など、傑作ばかりの3本!ぜひ、ご覧ください!
ベスト3『ラストムービー』(1971)
概要
1971年製作。アメリカ映画。
1969年に『イージー★ライダー』でカンヌ映画祭新人監督賞を受賞し、一躍時代の寵児になったデニス・ホッパーの監督第2作。
脚本は『理由なき反抗』のスチュワート・スターン。
日本では31年振りの再上映。
物語は、デニス・ホッパー扮する主人公のスタントマンがペルーに撮影に来る話。
ポイント1「暴力と異文化衝突」
ビリー・ザ・キッドの西部劇の撮影は進行するが、それに感化された現地人が映画スタッフを真似て本物の映画を取り出す。
次第に現実と幻想が入り乱れ、正気を失い狂気に陥っていく。
本当に暴力で殺し合うところを撮影しようとする。真似事が真似事じゃなくなっていく。
竹で編んだお手製のカメラやマイク、小道具で撮影。
ハリウッドから撮影隊が入り込む(暴力を持ち込む)ことで、現地の文化に暴力が入り込み、現実と幻想の境目がなくなっていく。
映画で殺されてるのか現実で殺されてるのかわからなくなってくる。
映画演出の危うさ(ベッドシーンは現実か?虚構か?問題)
次第に主人公が殺される役をやらされるハメになっていく。
ポイント2「虚構と現実」
虚構と現実。
60年代後期のカウンターカルチャー、ドラッグカルチャー、フリーセックスを体現。
スタッフと酒やマリファナやコカインで騒ぎまくる。離陸して10分で機内にマリファナの煙が蔓延。
映画について言及する映画。ロード・ムービーの体をしたメタ映画。
回り回ってデニス・ホッパー自身を自己言及する映画。(ex.エヴァ)メタ映画好きにはおすすめ。
ゴダールの言葉に影響を受けた。「私はフィルムを抽象表現主義の画家が絵の具を使うように使ってみた」
ポスター「俺は、本当の超現実(シュールレアル)になりたいんだ」
俳優デニス・ホッパーのあまり知られていないアーティストとしての側面が垣間見える映画。
『イージー★ライダー』との共通点。
編集もジャンプカットや記憶が交錯する。現地の祭りをゲリラ撮影。タイトルが本編30分辺りで入る。
『地獄の黙示録(とハート・オブ・ダークネス)』に似てる。
異文化の奥地に赴き、超越的な体験をする(ex.闇の奥)
内容と現実に境目がなくなるほど混乱を来す。
ポイント3「お蔵入り」
ヴェネチア国際映画祭でCIDALC賞(審査員特別賞に相当)を受けるも、ユニバーサルの再編集指示を拒否→お蔵入りに。
この後10年ほど監督生命を奪われる。
文字通り「ラスト・ムービー」になりかける。
まとめ
映画を地で行くヒッピー・スターによるメタ映画。
Amazonで有料で観れる。
ベスト2『下女』(1960)
概要
1960年製作。韓国映画。
韓国の鬼才・キム・ギヨン監督。
舞台は朝鮮戦争後の60年代の韓国。
ブルジョワ音楽一家の妻が倒れ、夫であるピアノ教師が貧しい女工の若い娘を家政婦に雇う。
その一人の家政婦によって一家が崩壊していく物語。
マーティン・スコセッシが発掘してレストアした。
ポイント1「パラサイトの元ネタ」
家の中央に象徴的な階段があり、降りたり登ったりする。
貧しい女工がブルジョワ家庭に家政婦として入り込み、夫と関係を持つことで段々と一家を崩壊させる。
どこかで聞いたことある話?
ポン・ジュノが「パラサイト」製作時に参考にした作品。
ポン・ジュノのオールタイムベストにも入っている作品。
ポイント2「格差社会の象徴」
戦争も終わり、より良い生活を目指している一家。子供2人も養わなければならない。
日本もこの時代、一億総中流を目指していた。
新しい家を買い、下女を雇ったことから転落が始まった。
より上流を目指す一家と、貧しい女工の下女という対比
新しい家の中央にある階段。ここを行き来し、象徴的に演出されている。
この階段こそが格差社会の象徴として描かれていく。
家族の長女が足に障害がある→これも格差の表現。
ポイント3「キム・ギヨンの演出」
キム・ギヨンの演出。
ドギツイ情念と情念のぶつかり合い。思惑のぶつかり合い。
人間の欲深さ、業、真実を描こうとする執念。
ラスト、それまでの物語(映画の文法)を投げ捨てるかのような衝撃的なラスト。
映画館で思わず「何コレ?」と思う。
まとめ
アカデミー受賞作品にも影響を与えた韓国映画の傑作。
YouTubeで日本語字幕付きで全編観れる。
ベスト1『アングスト/不安』(1983)
概要
1983年製作。オーストリア映画。監督はジェラルド・カーグル。
日本では32年前にVHSスルーで発売。その時のタイトルは「鮮血と絶叫のメロディー/引き裂かれた夜」。
日本劇場初公開なので、リバイバルでもあり新作でもある。
『カルネ』のギャスパー・ノエは60回観た。
ポイント1「実在の事件がモデル」
実際の事件がモデル。オーストリアの荒涼とした寒々しい土地が舞台。
1980年1月に実際にオーストリアでヴェルナー・クニーセクが起こした、一家惨殺事件がモデル。
16歳で母親を刺し殺人未遂。強盗なども起こす。
1973年に73歳の女性を殺害し8年半の懲役。1980年、仮出所中の三日間で三人一家を襲撃し、全員拷問の挙句殺害。
ポイント2「実録・一家惨殺事件」
実録・一家惨殺事件。全編セリフもほとんどなく、ただただ犯行現場を見せられる。
一家惨殺事件版『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』
原一男監督『ゆきゆきて、神軍』
迷って戻ったりするリアルな描写・途切れないカット、どこまで計算なのか・どう演出したのか不明。
映画は仮出所から始まるが、突然理由もなく殺害し始め、それを追体験する。
犯人と一緒に事件を体験するかのような凝ったカメラワーク
役者の体に固定し顔のみを見せるショット
ロープシステムを使ったドローンのような上空から移動する犯人を追うカメラワーク
クレーンを使ったショット
POVのようなハンドヘルドカメラ
後にMVなどで使われる撮影技法を駆使。
撮影監督のズビグニェフ・リプチンスキは、後にジョン・レノン『イマジン』などのMVを監督。
音楽はタンジェリン・ドリームのクラウス・シュルツ。クラウトロック特有のアンビエントで終始不穏なムードが漂う。
技術的にもかなり野心的なことをしていることが、物語の異様さを醸成させている。
ポイント3「上映禁止」
オーストリアでは一週間で上映中止。ヨーロッパ全土では上映禁止。アメリカではXXX指定を受けた配給会社が逃亡。
監督のジェラルド・カーグルは私財をはたいて製作するも、この映画後一本も長編映画を撮っていない。
動機は「殺人に対する純粋な欲望」とも。
担当医への手紙
「親愛なるドクター。私は何も思いつきません。計画も動機もありませんでした。」
矛盾する表現。真相は藪の中。
犯人はいまだに終身刑で服役中。
まとめ
- 真に映画監督生命を賭けて全て失った映画。
- Blu-rayで観れる。
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